詩集『SOMETHING COOL』 著・黒田維理
この詩集との出会いは偶然でした。
ある休日、僕は新宿の武蔵野館に、映画を観に行きました。
大好きなジム・ジャームッシュ監督の最新作『パターソン』という映画です。
その映画の主人公はバスの運転手で、妻と愛犬のブルドックと暮らしています。
そして彼は、秘密のノートに自作の詩を綴ることを日課としています。
なにも起きそうにない彼の1週間を映した物語です。
とても小さな物語なのですが、映画が素晴らしすぎて、主人公の書く詩がとても良い雰囲気で…
僕は映画が終わってそのまま新宿の紀伊国屋書店に向かいました。
なんだか詩を読みたくなってしまったのです。
書店の詩のコーナーを見ていると、中原中也や、宮沢賢治や、谷川俊太郎の詩集が沢山置いてありました。
そんなにお金もない僕は、詩集を手にとってパラパラとめくり、一冊だけ買って帰ろうと考えていました。
そこに、『SOMETHING COOL』の表紙、なんとも言えない白黒のイカした写真、それこそクールな装丁が僕の目に飛び込んできたのです。
すぐに手に取りました。
著者は黒田維理。聞いたこともない名前でした。
ページをめくると度肝を抜かれました。
紙の雰囲気や印刷された字の雰囲気が最強にカッコいいのです。
少し黄味がかった乾いた紙に、タイプライターで直接打ち込んだような文字が浮かび上がっていたのです。
たまたま開いたページの詩のタイトルにはこう書かれていました。
クラブ ゴールデン・ゲイトにて
ジャズを聴きながら
ラッキー・ストライクの
包装紙に書いたpoéme
シビれた。
こんな本見たことない。直感で「コレだ!」とレジに直行しました。
なんと言えばいいのか、とにかくクールな感じなのです。それ以外の言葉は思いつきません。
レジで会計の時、ブックカバーをつけるかどうか聞かれましたが、もちろんつけません。
装丁がこんなにイケてるのに!そんなものつけるわけないでしょ!そんな感じです。
帰りの電車で、世界一かっこいい裸の本を堂々と読みました。
この詩集は「ナポリのナプキン」「コクテル・ドライ」「SOMETHING COOL」「甘い気体」「EXTRAORDINARY LITTLE DOG」の5つの構成から成っています。
最後に、この詩集の中の僕の好きな詩の一節を紹介します。
「ナポリのナプキン」から『置き手紙』という詩の最後の1行。
置き手紙には切手はいりませぬ
いや〜いいですね。
…いや、なにが良いかは説明できないです。
詩って難しいとかよく分からないって人が大半だと思うんですけど、それでいいと思います。
僕もたぶんよく分かってないし。
でも、なんか良い。分かんないけど心に引っかかる。繰り返し繰り返し目を通したくなるもの。
それが詩なんだと思います。